こだわる。
職人気質なんて言葉もあるように、モノを創り出す人々は生み出す物の細部の細部にまで神経を行き渡らせる。
しかし、そこには様々な”大人の事情”も絡んでくる、どこかで妥協も必要となるのである。

「いや、メニューの掲載は結構です。」
品目を尋ねたところ、料理長の上平氏に、にべも無く断られた。
ぽかんとする私に氏は続ける。
「ほんまに旨い物を出そうと思ってます。季節はもちろん、その日の天気や、漁師さんの成果で市場の品揃えは変わる。幾ら季節が旬でも見て出来が良くなければ買いません。買って来た物も質が下がるので冷凍保存して次の日に出したりはしてません。」

正直、驚いた。
確かに旬のものを美味しく出そうと突き詰めるとそうなるだろう。
しかし、私の中でそれはあくまで理想論であり、片田舎の漁港近くにでもある店ならいざ知らず、大阪のど真ん中でそれを実践しようだなんて想像だにしていなかった。

看板商品・人気商品をどう生み出すか大企業の会議室で何人も集まり頭を捻る。
最新鋭の技術と機器を使いコストダウンに励む。

全てを拒否し、こだわる。
「しょうもないもん、出したくないんです。」
看板メニューは「旨いもん」。 これ以上贅沢なメニューを私は知らない。